行政書士は食えないという噂の真相は真実なのか?

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行政書士
この記事の監修者
田中 伴典

2016年に社会保険労務士試験に合格後、都内の社会保険労務士法人で給与計算、賞与計算、退職金計算、住民税の年度更新、労働保険の年度更新、算定基礎届、年末調整、社会保険手続き、労務相談、就業規則の作成および改定などを規模・業種・内資系企業・外資系企業を問わず経験。

社会保険労務士法人退職後には語学留学でフィリピンへ行き、ワーキングホリデー制度を利用してオーストラリアにも行き「生きた英語」を体得。

帰国後は、上場会社の人事部の社員として給与計算や社会保険手続き業務に加えて従業員の労務管理および助成金の申請業務を経験。また、幅広い法律の問題にも対応するために同時期に行政書士試験に一発合格を果たす。

現在は開業社会保険労務士/行政書士として自身の事務所を運営している。

愛読書は石嵜 信憲弁護士の「法律と実務シリーズ」
三度の飯より法律の勉強が大好き。

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行政書士を調べている方なら検索フォームで【行政書士 食えない】といった文言を見たことはあるのではないでしょうか。

結論として、「行政書士が食えない」と言うのは嘘です。しかし、「食えない行政書士の方がいる」のは真実です。

今回は、「行政書士は食えない」という噂の真相を分析しました。

行政書士は食えないという噂の真相は?

行政書士は「頼れる町の法律家」とも呼ばれている士業の一つなので、仕事の幅も広く、需要は安定しています。では、なぜ行政書士は食えないという噂があるのでしょうか。

それは、行政書士の資格さえ持っていれば、仕事が舞い込んでくると勘違いしている方が多いからです。

行政書士として食えるようになるには、「知識や経験」はもちろんのこと、「集客や営業」がしっかりとできるようになる必要があります。

これは、士業にも関わらずどのビジネスでも言えることではないでしょうか。

行政書士は食えないと言われているのはなぜ?

行政書士を取り巻く環境はどうなっているのでしょうか。

行政書士の人数は毎年増え続けており、令和2年には約49,441人の行政書士が新しく登録を行っています。

これだけ多くの登録者数が毎年増えると言うこととなると、自身の事務所がお客様の目に留まる確率は低くなることとなります。

ゆえに、集客と営業をしっかり行わないで、行政書士の資格を取った勢いで開業してしまうと失敗する可能性が高く、そういう方が続出すれば当然、廃業件数も多くなります。

「行政書士が食えない理由」は他に何があるのでしょうか。それぞれ詳しく見ていきましょう。

理由1:試験に合格=実務ができる、ではない

行政書士試験を突破するために勉強する科目と言うのは、今後、実務をする上での「基礎力」を養うための科目となります。

実務では、営業許可申請でも民事実務でも、これまで学んできた法律(基礎)を使いこなして「書面」として形にしなければなりません。

こればっかりは、実務の世界に飛び込んでこそ、養われる能力です。

理由2:良くも悪くも独立しやすい資格であること

行政書士は、他の士業と比べて取扱いのできる業務に「幅」があるのが特徴的です。

この「業務の幅が広いこと」が良くも悪くも「独立しやすい」ことに影響していると思われます。

また、他の士業の1つに社会保険労務士があります。社会保険労務士は、試験合格後に「原則、2年の実務経験」がなければ登録はできませんが、行政書士にはそのような実務要件はありません。

こういったところが、知識(士業にとっての事業製品)がまだ未成熟なまま、実務の世界に飛び込んでしまい結果として、仕事がとれないという結果に繋がっていると考えられます。

勿論、実務の世界に飛び込まなければ経験できないこともあるので、独立することは悪いことではありません。しかし、「これが私の武器」と言える知識がまだないのであれば「行政書士補助者」として行政書士事務所などで数年修行を積むのも必要ではないでしょうか。

そこが個人事務所であるのであれば、所長のそばで仕事をすることができるので、「営業や集客方法」も見て学ぶことができるはずです。

理由3:何を依頼できるのか依頼者側が想像しにくいから

行政書士は、主に役所に提出する書類を作成したり、手続きの代理を行ったりする仕事です。

なお、行政書士に依頼できる仕事の種類は10,000種類以上あると言われています。

しかし、他の士業と比べて依頼者側が何を依頼できるのか想像しにくいという特徴があります。

弁護士であれば裁判関係、税理士は税務関係など職業で仕事内容がイメージしやすいですが、行政書士と言われて仕事内容が浮かぶ人はそう多くはないでしょう。

結果的に「行政書士って何ができるの?」という疑問に繋がります。

また、メイン業務が書類作成なので、「頼まなくても自分でできそう」というイメージもあることが、食えないというイメージにつながっているのでは、とも考えられます。

理由4:単発の仕事が多いから

行政書士の業務は、その多くが期的な仕事ではなく、一回限りの単発の仕事が多いのが特徴です。

これは、経験が浅いうちは特に顕著です。また、行政書士の行う業務内容的に仕方がないことです。

なお、士業には「顧問という継続業務」があります。しかし、行政書士が顧問業務を獲得するのは容易ではありません。

なぜならば、行政書士と比べて顧問業務が獲得しやすい社会保険労務士(労務顧問)や税理士(税務顧問)だとしても「数万円」を毎月いただく顧問業務を獲得することは容易ではないからです。

行政書士も、長期的に事業として成り立たせるためには「顧問業務」や単発だとしても「リピーター」を作っていかなければならないでしょう。

行政書士は食えないという噂が嘘である4つの理由

これまでに「行政書士が食えない要因」を考察してきました。

しかし、行政書士を初めとする士業には、それぞれ「独占業務」というモノがあり、他のビジネスに比べて強力な武器があります。

「行政書士が食える要因」は他に何があるのでしょうか。それぞれ、詳しく見ていきましょう。

理由1:行政書士の業務は変わり続けるが、無くならない

行政書士は競合が多く、競争の激しい仕事ではあるものの、業務自体が無くなるということはありえません。

なぜならば、行政書士の取り扱うことができる書類は10,000種類以上あるからです。

なお、行政書士市場において何十年もやっている先輩行政書士と競った際に打ち勝つのは、容易ではないでしょう。

しかし、「法改正」が行われ「新しい業務が生まれた」ときは新人にとって追い風となります。誰もが右も左も分からないような状況であれば、どちらが勝つか結果は分からないと思います。

理由2:今後も職域が拡大していく可能性がある

行政書士を初めとする士業には「職域」というモノがあり、その範囲内でしか業務を行うことができません。

例えば、行政書士が裁判において顧客の「代理人」として業務を行うことはできません。なぜならば、それは弁護士の職域だからです。

そんな中、行政書士は過去から現在まで職域の幅が拡大してきたという事実があります。

例えば、平成13年には「行政書士が作成することができる書類を官公署に提出する手続きについての代理権」と「行政書士が作成することができる契約その他の書類を作成することの代理権」等が付与されました。

これは、「使者(※単なるお使いのようなイメージです」だったモノが「代理人※本人の代わり」として業務を行えるようになったと言うことであり、非常に大きな変化でした。

他にも、平成20年の行政書士法の改正では、「聴聞代理権」と「弁明代理権」が付与されました。そして平成26年には「不服申立ての代理権(※特定行政書士のみ可)」が付与されました。

これは、許認可申請を行政書士が申請した場合に、不許可となったり業務停止処分を受けそうに場合に、(特定)行政書士が顧客の代理人として対応できるということです。

このように行政書士が対応可能な業務は今後も拡大されていくでしょう。

理由3:専門分野を極めることで需要が高まるから

誰しも依頼するとしたら「専門家」に依頼したいと思うのが普通です。

例えば、皮膚科を選ぶにしても、ニキビ治療が得意なのか、アトピー治療が得意なのかなどを調べると思いますが、行政書士もそれと同じです。

行政書士の中でも、どの分野が得意なのかによって受注率が変わってきます。

例えば、「全ての業界」に対応しているという宣伝をするよりは「美容業界専門のプロ」と宣伝した方がそれを求めているお客さんからの需要が高まります。

また、専門分野を明確にすることにより、営業開拓先も絞ることができる上、ノウハウが蓄積していった結果、業務も短時間で行えるようになったりします。

「◉◉ならこの行政書士に頼めばOK」という風に、自分のブランドの確立ができれば食べていけるでしょう。

理由4:業務の全てをAIには置き換えられないから

巷では行政書士の仕事はAIに奪われてしまうとも言われていますが、AIにはできない仕事も多いので、完全に無くなる訳ではありません。

AIはデータの処理や計算が得意分野なので、残念ながら行政書士の簡単な書類作成などはAIに取られる可能性は今後高くなってきます。

つまり、簡易的な給与計算代行や記帳代行といった業務については、AIに取って代わられてしまうでしょう。

しかし、行政書士が取り扱う業務の全てが簡易的なモノではなく、許認可申請など個々の事情を踏まえて法律とすり合わせながら行わなければならない業務もあります。

100人のお客さんがいれば100通りの事情があり、それぞれに沿ったアプローチが必要となります。これはAIにはできない作業です。

これを踏まえると、今後、すぐにAIが行政書士の「全ての仕事」を完全に取って代わってしまうということはないでしょう。

行政書士は『工夫次第』で安定した収入を得られる仕事!

今回は行政書士が食えないという噂の真相はどうなのか、について解説しました。

結論から言うと「食えない行政書士」がいると言うのは事実です。しかし、「食える行政書士」がいるのも事実です。

つまるところ、「法改正」によって「新たな業務」が生まれ、時に「職域が拡大」していく中で腐らず「専門分野」を確立し、スキルを磨き続けることで食える行政書士になることは可能です。

食える・食えないの結果は自分次第(工夫次第)ではないでしょうか。


この記事は2022年12月の情報に基づきます。

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